はじめに
近年、生成AIの発達やオンラインの書類作成ツールの普及により、司法書士・弁護士(以下、「司法書士等」といいます。)に頼らなくても複雑ではないケースでは、手軽に会社設立に必要な書類を作成できる環境が整ってきました。
「わざわざ司法書士等に頼まなくても、生成AIを使えば、自分で会社設立登記ができるのでは?」とお考えになる方も増えています。
もちろん、形式的な要件を満たしていれば、会社設立登記自体は、ご自身でも可能かと考えておりますが、法務局の登記審査は「形式的審査」です。「形式的審査」とは、提出された書類が「法律上の形式を満たしているか」のみをチェックする審査のことです。
つまり、たとえ内容が事業の実態に合っていなかったり、将来的に経営トラブルを引き起こすリスクが潜んでいたとしても、形式上の不備さえ無ければ登記自体は通ってしまうのです。
そのため、登記が無事完了したものの、後日、問題が生じてしまうケースも少なくないのです。
本記事では、これから起業を目指す事業者様に向けて、司法書士の目線から「会社設立の大まかなポイント」を解説します。
1. 株式会社と合同会社、どちらを選ぶのが正解?
会社設立を考える際、最初に直面するのが「株式会社」と「合同会社」のどちらにするかという会社形態の選択です。
単純な設立費用の安さだけで「合同会社」を安易に選んでしまいがちな部分もあると思いますが、以下のとおり大きな違いを表にまとめ、重要なポイントについて3つほど解説いたします。
余談ですが、法律上「代表取締役」と名乗るためには、「株式会社」である必要があります。
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比較項目 |
株式会社 |
合同会社 |
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設立時の法定費用 |
約16万5千円〜 |
約6万円〜 |
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役員の呼称 |
取締役 |
業務執行社員 |
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代表者の住所非表示制度 |
利用可能 |
利用不可 |
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資金調達・上場 |
株式発行による資金調達が可能・上場可 |
定款変更による資金調達が可能・上場不可 |
(1)プライバシー保護の観点(代表取締役等住所非表示制度)
近年、非常に重要な判断基準となっているのが、プライバシーの保護です。
2024年10月より「代表取締役等住所非表示措置」という制度がスタートし、一定の要件を満たせば会社の登記事項証明書に代表取締役等の自宅住所を記載しなくて済むようになりました。
会社の登記事項証明書は会社名と会社住所が特定できれば、誰でも取得できるので、自宅住所の非公開は非常に安心できるものになるかと思います。
しかし、この制度が利用できるのは「株式会社」の代表取締役であり、「合同会社」の代表社員は現時点では対象外となっています(商業登記規則第31条の3)。
本制度開始前は、1人会社(出資者と役員が1名のみで同じ人)でスモールビジネスを想定した方は、コストパフォーマンスを優先し、合同会社を選択される方が多い印象でしたが、今後はこのような方であっても、プライバシー保護を重視する場合は株式会社が有力な選択肢となると考えております。
(2) 合同会社の自由度
合同会社の最大のメリットは、設立費用が安価な他、会社法による縛りが少なく、利益配分や各種決定権限の多くを自社で自由に決められるところにあります。
しかし、これは裏を返せば「自分たちで細かくルール作りをしなければならない」ということです。
株式会社であれば、会社法である程度のルール(所有と経営の分離、株主総会の権限など)が明文化されています。
複数人で共同経営をする場合、ルールの土台の多くが定款に委ねられている合同会社で細かな取り決め(退社時の持分払戻しや、意見対立時の解決法など)を一般の方々が設計するのは非常に難しく、逆にトラブルの温床になりやすい点には注意が必要です。
逆にいえば、1人会社で、かつ対外的な取引をあまり想定しない、いわゆる資産管理会社のような立ち位置の会社であれば、合同会社の方が適切である可能性があります。
合同会社は、定時株主総会のように1年に1度株主総会を開催しなければならないルールもなく、決算公告も不要で、役員任期もないため、役員の任期切れを原因とした登記懈怠による過料通知のリスクもございません(会社法第3編持分会社参照)。
さらに、会社法による合同会社から株式会社への組織変更という手続きを履践すれば、後から法人格を維持したまま株式会社に変更することもできます。(会社法第743条)
(司法書士等の報酬を合わせると大体20万~30万円の費用と2か月程度の準備期間が想定されます。)
(3) スタートアップ企業の多くが株式会社を選ぶ理由
それでもスタートアップの多くが株式会社を選ぶ理由は、会社法において組織運営や権利関係の原則的なルールが明確に定められている点や、投資家による資金調達が盛んに行われ、将来の株式上場を見据えて優秀な人材を獲得するためのストックオプションを発行できるなど、事業拡大を想定した規定が合同会社よりも豊富である点が強いと考えております。
会社の規模をどんどん大きくしたいと考えられている方は、最初から株式会社を選択したほうが良いでしょう。
2. 共同経営で会社を設立する場合の「出資比率」について
会社の形態を決めた後、友人やビジネスパートナーと一緒に起業する「共同経営」を行う場合に最も注意すべきなのが「出資比率」です。
実は、法務トラブルが最も発生しやすいポイントでもありますので、このような共同経営を行う場合は、前述の「合同会社の自由度」に記載したとおり、株式会社を選択することを推奨させていただきます。
よくあるケースとしては、友人関係の2名が出資比率を半々(50:50)にして、株式会社を設立することが見られます。
株式会社の重要事項は株主総会の決議で決定されるので、もし経営方針で意見が対立した場合、お互いに意見を譲らないと意思決定が完全にストップ(デッドロック)してしまいます。
最悪の場合、重要な融資や取引の前に実施すべき「取締役の選任」や「定款変更等」が実施できないなんてことも想定されますので、出資比率については、専門家に相談の上、出資者の会社に対しての貢献具合や、出資者が描いているビジネスプランと合わせて慎重に検討したほうが良いでしょう。
出資者の一方の業務負担が多いにもかかわらず、出資割合が平等であったりするような場合、会社の売り上げが上がってきたときに不満の原因になりやすい傾向があります。
上記のような場合は、業務負担が多い方が70%、少ない方が30%の出資と修正されるのも1つの解決策となります。
※ 参考までに出資割合で変わってくる株主総会の議決権は以下のとおりになります。
51%以上(過半数): 取締役の選任・解任など、決算承認等が単独で決定可能
(会社法第309条第1項)
67%以上(3分の2): 定款変更、事業譲渡、会社の解散など、重要事項(特別決議)を単独で決定可能
(会社法第309条第2項)
上記のとおり、70%の出資割合があると、ほとんどの事項が単独で決定できるので、デッドロックの心配が大幅に少なくなります。(会社法には、総株主の同意を要するものや株主総会の特殊決議といったものが存在し、100%の事項が単独で決定できるわけではございませんが。)
また、共同経営の場合は、あらかじめ、「運営上の役割分担、役員選任権、一方が退職・離脱した際に株式を買い取る規定」などを定めた株主間契約を交わしておくことを強く推奨しております。
設立時にある程度の取り決めをしていることで、対立を防ぐ1つのポイントとなります。

まとめ
本記事では、これから起業を目指す事業者様に向けて、司法書士の目線から「会社設立の大まかなポイント」を解説しました。実際に設立の準備を進める段階では、資本金の額や役員の構成など、さらに詳細な検討が必要になるかと思います。
昨今、生成AIや書類作成ツールの登場により、ご自身のみで登記手続きを完結できる環境が整いつつあります。
しかしながら、会社を設立するにあたっては、会社法を網羅的に理解したうえで、最適解を考えながら定款の作成や将来の紛争を未然に防ぐための株主間契約の締結の提案等が必要になると考えております。
「自身のケースではどのような設計が最適か?」と判断に迷われる際は、ぜひお気軽にご相談ください。
これから新たな一歩を踏み出される皆様の挑戦が、輝かしいスタートとなることを心より願っております。